私が尊敬する職人さんのご紹介

稲葉左官店 稲葉 通元さま
一級技能士/職業訓練指導員

 

この業界で、地元では「左官の稲葉さん」を知らない人はいないほど有名な方です。私も、その技能と経験、仕事ぶりに敬服する者の一人として、お話しを伺いました。

稲葉  ええ、長いですね。もう60年になりますね。親父が独立して芹が谷で始めたんですが、80歳を越えたいまも現場に出てきますよ。

まあ、そうですね。中学、高校の頃からけっこう手伝いましたよ。実は、他のバイトをやるより身入りが良かったんです。(笑)

いいえ、まったく考えていませんでしたね。左官という仕事は、いずれ無くなると思っていましたから。

そうですね。結局、家業を継いで、いままできちゃいました。左官という職業は、これからもたぶん無くなりはしないけれど、職人の数は減ってますね。風呂にタイルを張る家はほとんど無くなりましたし、壁面もサイディングになった。昔ながらの漆喰の壁はほとんど見られません。「…のようなもの」は便利な製品として出ていますが。(笑) 職人の技が必要とされる領域は少なくなっていると思います。

ウチは町場、つまり工務店がつくる一般住宅の仕事をしているんですが、中でも費用と時間をかけて建てる、こだわりの施主さんが多いですね。壁面もクロス貼りなら早くて安く上がりますが、塗り壁ならではの味わいや、身体や環境への影響などを考えて依頼される方も。年配ばかりじゃなくて、若い施主さんも結構いらっしゃいますよ。

 そうだといいですね。(笑) 私は、建材や資材が時代とともに進化していくのは、ごく自然の流れだと思っています。ですから、職人のほうも現代の建築に対応する、新しい意味での「技」が必要になってくる。伝統的なものを大切にしながら、新しい技術を柔軟に取り入れていくことが、いつの時代にも求められているんじゃないかと思います。

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